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お寿司屋さん [随筆]

   お寿司屋さん
 子どもがまだ二人で、一人が小学生、一人が保育園児だった頃のことだったと思います。
 何があったのかまでは忘れてしまったのですが、何かうれしいことがあって、初めてお寿司屋さんに家族連れで行きました。回転寿司なんてまだない頃の話です。 
 「今日は好きなものを食べていいよ」などと言ってしまったところ、二人して、今まで食べさせてもらったこともないトロだのなんだの「時価」としか書いてないものばかり注文します。それまでは、たまにお寿司を取ることはあっても、いつも「並」だったから、そんなものを食べたことはなかったのです。 
 妻と私は思わず顔を見合わせてしまいました。でも、「好きなものを食べていい」と言ってしまったわけですから、今さらどうしようもありません。「おいしい、おいしい」と言って食べる二人の様子を、うれしい気持ちと、はらはらする気持ちと、複雑な気持ちで見ていました。 
 すると、二人は気づいて「パパとママは、食べないの?」と聞きます。 
 「パパとママは食べたからいいんだよ。今日は二人のために連れてきたんだから」と答えるしかありませんでした。でも、お腹は正直でグーグー鳴って困りました。
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 子ども三人、保育園の送り迎えだけは、私の担当として10数年間やり抜きました。
 その日は「今日は迎えは私がするけど、その後、集まりがあるので夕食をお願いします」と言われていました。ところが、仕事に夢中になり、今日は迎えに行かなくていいということだけ覚えていて、その後のことをすっかり忘れてしまい、気がついたのは8時過ぎでした。
 真っ青になって、今からでもどこか出前を頼める所があるだろうかなどと考えながら家に帰ってみると、子ども三人、仲良くお寿司を取って食べていました。しかも、どれも「特上握りのさび抜き」です。
 子どもに出前の注文などさせたことはないのに、夕食を食べさせるはずのお父さんがいつまでも帰って来ないので、自分たちで相談してそうしたのでしょう。
 やられた、と思いました。いい加減な親でも、子どもはちゃんとたくましく育っているんだ、とも思いました。
 この時も何も言えませんでした。そして、この時もお腹がグーグー鳴って困りました。
 ………………………………………………
 それから三十年、今、孫たちは、「お寿司屋さん」と言えば「回る」ものだと思っています。「回らない」お寿司屋さんには、行ったことがないかも知れません。

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